小話

人なつっこい含みのない笑顔をふりまきながら僕の隣へ座った
「私、魔女が見えるんです。」
変わった子だ。
「そして私と会った人も見えるようになるんですよ。」
それが僕と彼女の出会いだった。
変な挨拶には戸惑ったけれど、いつも街角にいる黒ずくめの魔女の話は結構楽しめたし、そんな話も最初だけで後はいたって普通の飲み会だった。
終電の時間になったので僕はみんなと別れて家路につく。今回はいつもより飲んでしまったせいで少し頭が痛いし、非常に眠い。駅からアパートまでたった5分だがそれすら面倒くさい。
春先とはいえ駅で寝るにはまだ早い。重いまぶたをこすりながらなんとかアパートへ到着する。
鍵を開けて部屋へ入る。すると部屋の中央に置いてあるテーブルの上のティッシュ箱からティッシュが次々と飛び出している。いや、黒い服に身を包んだ小さな、横にある爪楊枝くらいの大きさしかない小さな人間がティッシュを箱からばらまいているのだ。
信じられない光景に驚いたが、僕は今アルコールを摂取した後なのだと思いだし目をこすってもう一度確かめる。
そこにはもう小さな人間の姿は無かったが、そこだけ台風が来たかのようにティッシュが散らばっているのだった。
と、兄ちゃんが言っていた。やはり小人は存在するのだ。